デジタル技術を使った設計が一般化し、それに対応した生産手段が国内にいくらでもあるという状況が整った結果、ガレージキット感覚でインジェクションプラスチックキットがボコボコ発売されまくっている現在の中国。鼻息の荒い新興ホビーメーカーがいくつも生まれているわけですが、そんなメーカーの中にはプラモデル用のツールを作る企業も存在しています。
今回ご紹介するプラモ「Knight of Dark Sky夜空の騎士」を製造しているHobbyMioも、そんなツールメーカーのひとつです。基本的には紙ヤスリやナイフみたいな、模型製作に役立つ工具を作っているメーカーなんですが、勢い余ったのかプラモデル自体の生産も開始。しかも「ちょっとした小粒なキットで様子を見る」なんてことはせず、いきなり全力投球の巨大キットを投入してきました。
とにかく箱がむちゃくちゃデカい
中には部品がぎっしり!
その巨大キットというのが、こちらの「Knight of Dark Sky夜空の騎士」。箱にも書いてあるようにデザイン自体はHobbyMioが担当したわけではなく、NONZERO STUDIOという別のデザインチームが行ったものとのこと。最近の中国でよく見る「俺が考えた最高のロボットが、なんやかんやあってプラモデルになったやつ」という感じですね。
そしてまず特筆すべきは、その圧倒的な箱のデカさ。縦40㎝、横30㎝、箱の厚みは16.5㎝という、パーフェクトグレードのガンプラでも入っとるんかというサイズ感です。そして開けてみると中にはパーツがギッシリ。「A」から始まったランナーのナンバリングが最終的に「N」まで到達するという、恐るべきパーツ点数です。Nってアンタ……。向こうのプラモデルは一試合完全燃焼主義だなあと思うことが多いですが、このキットもその路線。近頃の中国のマニア的には「色分けを全部成形色で再現した、パーツ点数が多くて食いごたえのあるキットが最高のキット」みたいな感じなんでしょうか。組み立てる前から熱気にアテられちゃいそうです。もっとサラッとした、お茶漬けみたいなプラモを作ってもいいのよ……。
箱の中には、ブリスターパックに入った組み立て済みのフレームが
これだけでもちゃんと自立する。すげ〜
こちらは脚なわけですが……
膝を曲げると太ももとか膝とかのユニットがリンクしてグニグニ動く。オタクが好きなやつ〜
上半身のフレームも……
両肩や腹部を前屈させると各部のユニットがリンクして動く!
腕の部分も……
肘を曲げると上下腕の表面のディテールが腕の中にめり込む! 肘や膝の関節が無意味に二重関節になってないあたりは好感が持てます
巨大な箱の中にはビニール袋に混じって小箱が入っており、開けてみると中には組み立て済みのフレームが! あ〜、これにガワの装甲をベタベタくっつけていくタイプのプラモね……。「おれの考えた最強ロボットプラモ」を作るんだったら、やっぱりこういうこともやりたくなっちゃうよね……と、勝手に中国のマニアに対して親近感が湧いてきます。もっとも、実際の組み立て工程では、せっかく組み立ててあるフレームをバラバラに分解する必要があるんですが。じゃあなんで組んだものを入れたんだろうと考えると、やっぱり「客をビビらせたかったから」しか理由が思いつかない。「な! ほらな! このフレーム、スゲーだろ!」という声が聞こえてくるような演出です。
完成するとこんな感じ。カッケ〜
とにかく分割の細かいキットだということが伝わりますでしょうか……
でっかい剣は背中に背負うことができます
頭にはツノがたくさん生えております
フレームから生えているパーツ固定用の出っ張りがそのまま装甲表面にも露出して、アクセントになっているのがうまい
胴体を前屈させると、腹の部分のガワがぐっと中に押し込まれる構造。ここはすごくよくできている
胴体が前屈したのに合わせて、背中の装甲も動きます
膝を曲げると、これ見よがしに装甲がグニグニ動きます
肩を前後にスイングする動作に合わせて、胸の装甲も動きます
肩をこれだけ内側に入れることも可能。上半身は本当によく動きますね
組み立てるとこんな感じ。パーツの表面はしっとりした梨地になっていて、ツヤ消しクリアーを吹いたような質感です。各部にバキバキにディテールが入ってて、いかにもイマドキのロボットのデザインですね。正直、組み立て工程についてはむちゃくちゃ面白いというポイントはほぼなく、ひたすらアンダーゲートの部品を切り取ってはハメ込む工程を繰り返すのみ……という感じです。パーツの勘合はほぼ完璧で、スナップフィットならではの「キツすぎる」「ユルすぎる」といった部分もなし。ビシビシとパーツが組み合わさってがっちりしたロボットができていく様はなかなか壮観なんですが、いかんせんパーツがとにかく多く、「いつになったら終わるんだろう……」「修行かな……?」という気持ちになったのも事実。あと、目の裏側には付属の発光ユニットを組み込む設計で、磁石を近づけると光るらしいんですが、どうも自分の組み立て方がまずかったのか何をやっても光らず……。残念!
で、このKnight of Dark Sky夜空の騎士の大きな見どころが、関節の動きに合わせてグニグニと全体のガワが動くところ。最近の大きめのガンプラとかでもよく見るギミックではありますが、実際に動かしてみてググッと装甲が動くところを見ると、やっぱり「おお〜」と思ってしまうものですね。特に胴体を前屈させた時に腹の部分の装甲が折り畳まれて腹部に格納される構造はよくできており、ここだけ何度も動かしてしまいました。フレーム自体もがっちりした作りなので、動かしまくっても関節部分が摩耗してヘタることはなく、安定して遊べそう。ここはこのキットのいいところだと思います。
剣を持つ指パーツの内側には出っ張りがあり、それをグリップに彫られた溝に噛み合わせることでしっかり武器を保持できるという仕組み
両手で剣を構えるポーズも余裕です
もちろん二刀流だってできちゃう
銃型の武器も付属しています
武器を持たせてポーズをつけても面白い。むちゃくちゃデカい剣と、そこまでデカくない銃が付属しており、どちらも指に付けられた出っ張りを武器のグリップに噛み合わせることで手に固定できます。上半身は胴体の前傾や肩の引き出しもできるなど、可動に関してはかなり優秀。ポーズをつけていても楽しいです。特に肩が大きくスイングできる構造はなかなかよく効いており、体の前で両手を使って剣を構えるようなポーズも余裕でこなします。いいじゃんいいじゃ〜ん!
と、上半身の可動はなかなか優秀なんですが、股関節というか脚の付け根部分がちょっと微妙。どうもこの部分は腰にぶら下がっている装甲や太ももの上の方の装甲など、いろいろな部分のガワがぶつかりまくる設計になっており、なかなか大胆に動かすことができません。さらに大量のパーツを組み合わせていることから本体の重量がそこそこあるため、股関節の強度が自重に負けそうになっちゃうことも。腰から上はポーズつけてても楽しいぶん、ここはもうちょっと頑張ってほしかった……!
と、まあ「Knight of Dark Sky夜空の騎士」について好き勝手に書いてきたわけですが、基本的には非常に野心的なキットといえるでしょう。日本国内においてこのようなモチーフをこのようなクオリティのプラモデルに落とし込んでいるメーカーはやはりバンダイをおいて他になく、それをホビー用ツールのメーカーが自分たちでやってしまおうという中国の状況には、やはりシーンが大手メーカーによって固まってしまう前の過渡期らしい雰囲気を感じます。このKnight of Dark Sky夜空の騎士にも、そんな雰囲気は感じられました。
この技術力と熱さが、「俺の考えた最強のガンプラ」「一試合完全燃焼の、食いごたえありまくりなキット」みたいな方向以外にも噴き出すと楽しいなあ……と個人的には思うんですが、しかし向こうのマニアも日本のモデラーと同じようにモリモリとガンプラを食べている以上、まずはそちらの方向に収斂進化していくのもまた当然でしょう。そういった意味で、Knight of Dark Skyは現在の中国プラモデルシーンの状況が詰まっているようなプラモデルと言えるかもしれません。あちらのマニアのテンションや思考に触れたいという人には、ぜひトライしていただきたいキットです。
ブランド:零非智造(HobbyMio)
商品カテゴリ:プラモデル
JAN:6972852111804
類別:組み立て塗装が必要なプラモデル。別途、工具、塗料等が必要。
箱サイズ:400×300×170 mm
【本体の骨組み】
可動関節:41か所
可動ギミック:12か所
【キット】
数量:21枚(表面はマット仕上げ)
色分け済み:8種類(追加の塗装は必要ありません)
【アクセサリー】
高温炭素セラミックススホットメルトナイフ×2(大剣に組み合わせることができます)
55mmレールガン×1(変形機構を備えます)
■ライタープロフィール
ニックネーム:しげる 出身地:日本・岐阜県 自己紹介:フリーライター。ホビー誌などでいろいろな原稿を書く傍ら、毎月けっこうな量のオモチャを買って遊びながら暮らしています
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