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【テレパコラム③】業界で注目されている中国フィギュアメーカーと日本個人クリエイター提携案件についての経験談

筆者は、日中ライセンス業務の実務経験者として、国際的に知名度が高い日本トップIPコンテンツの中国メーカーへのライセンス案件を多数手掛けてきました。また、日本の個人クリエイター、特に若手で才能に恵まれる新人クリエイターをピックアップし、中国メーカーへ斡旋紹介するコラボ案件を数多く成立させました。そうした業務の中で自然に日本のクリエイターと中国メーカーの双方といろいろな話をする事ができました。


どうすれば国境を越えたコラボビジネス案件を成立させられるのか……。日本のクリエイターさんたちも中国のメーカーさんも、現状ではお互いにこのビジネスにおける経験がまだ不足し、時には考え方に行き違いが起こっていることも現実です。そこで中国市場でビジネスチャンスを模索していきたい日本クリエイターさんたちに、自分の経験を伝える必要があると思い、この記事を書きました。


中国で様々な業界のメーカーとつきあいはありますが、日本の個人クリエイターとのコラボ案件の場合、主にホビー・フィギュア分野を手掛けてまいりましたので、この業界を中心にお話していきたいと思います。とは言え、考え方の部分は商品のカテゴリーに関わらず、他分野の案件においても参考できる部分はたくさんあると思いますので、ぜひ皆様のお役に立てればと考えております。



中国のホビー・フィギュアメーカーが日本クリエイターとコラボ企画をする理由


まずそもそも、なぜ中国のホビー・フィギュアメーカーは日本の個人クリエイターと仕事をしたがるのか、その理由についてお話します。「メーカーさんが人気イラストレーターのファンである」という半分”推し”みたいな理由はさておき、より現実的なビジネス視点から見ますと、出発点はやはり商業的な価値があるからこそなのです。


とくに一番の理由は「企画成立のしやすさ」だと筆者は考えています。日本で一番にビジネス価値のある大手企業の人気IP作品のキャラクターを商品化するのは、やはり同様に日本の大手メーカーに占められてしまっている場合がほとんどです。それは作品の制作段階で、様々なジャンルのメーカーが直接アニメの制作委員会に参加するというパターンも多くなっています。


中国のホビー・フィギュア企業にとって、海外メーカーである以上、日本で認められるわかりやすい実績がなければ、直接申請で有名な大手企業のIPのライセンスを取得することは非常に困難です。しかしながらライセンス授権の判断について、大きな企業ではなく個人の場合であれば、企画承認のプロセスも非常にスピーディーです。まずはこのビジネスのハードルが低い個人クリエイター・イラストレーターとコラボして、自社商品企画の強みをアピールできる実績作ります。これはやがて大手企業IPライセンス元と正式にビジネス申請する前段階として現実的な橋渡し方法になっております。


二番目の理由は市場の潜在力が期待できることです。これはどこの国の市場にも共通して言える話ですが、人気IPライセンス作品のホビー・フィギュア商品企画の場合、すでに多くのメーカーがさまざまな形ですでに商品化されており、企画に何か斬新さや突破点がないと、消費者がその企画造形自体に飽きてしまっていることがよくあります。対照的にネット上で最近ヒットした人気個人クリエイター・イラストレーターの作品は、商品化前例のない方が多いので、まだまだこれから市場開拓できる可能性がある、と見てもらえます。


三番目の理由は監修コストの部分です。特に人気の有名IP作品は監修も厳しく、特に中国などの海外メーカー案件の場合は、監修チェックの時間やコストが自国メーカーの商品よりもかかります。しかし個人クリエイターとコラボする際は、作者さんと直の監修やり取りができるので、人や組織を介さない分、コミュニケーションが非常に効率的です。近年、中国のホビー・フィギュアメーカーは、特に力があるところは毎年リリースする新商品数を一定の水準で維持する必要があります。大手IP作品の商品化企画と並行して個人イラストレーターとのコラボ案件も進めるのは、監修の時間や労力、金銭面のコストに配慮する必要があるからと言えます。


そして最後の四番目の理由ですが、これは現実的に商業成功としての収益性が見えるからです。日本はホビー・フィギュア分野では無視できない市場であり、たとえ個人クリエイターIPによる案件でも企画性・クオリティーに優れた商品をリリースできる事が多く、有名IPコンテンツ作品にも負けない売上収益を実現する前例は多くあります。また中国メーカーの考えとしては、個人クリエイターと国際的なコラボレーションを実現し、そして日本市場で一定の商業的成功を収めることはブランドのグローバル的な影響力拡大にも大いに役立つという考え方があります。


以上は筆者が見聞きしてきた中国メーカーの立場からの考えを説明しました。次は日本クリエイターの立場から少しお話しをしましょう。



中国のホビー・フィギュアメーカーと組めば必ず儲けられる? マーケットの実情はこうなんです。


日本の個人クリエイターの多くの方と、実際にビジネスマッチングを経験してきて気づいたことは、中国メーカー案件において、ほぼ皆様、実際の現場を見たことがない、という方がほとんどです。


したがいまして、ネットなどの情報から「中国企業は金持ちだ」「自分の作品は中国ですごく売れている」「中国企業と組めば高給取りだ」という考え方を持っている方は少なくないと感じています。しかしながら筆者から見たら、あくまで一部の成功事例から得た断片的な情報が蔓延し、それを信じ込んでいるケースが多いです。実際に案件を進める際、このような考え方が案件進行中トラブルの種になってしまうので、ビジネス現場の最前線の人間として、より参考価値が高いリアルな情報を伝えるべきだと考えています。


中国のホビー・フィギュアメーカーは、新規で立ち上げたベンチャー企業が多いです。そして起業する際に資金予算はある程度確保できているので、商品企画を迅速に立ち上げて推進するために、より積極的に多めの予算をライセンス確保に使うのが自然の流れです。また新興企業なので設立当初は市場のトレンド状況をうまく把握できていない、人脈ネットワークも広げていないため、たとえば誠意のないビジネスブローカーなどから、市場相場よりも高いライセンス授権の値段を提示され、それでもとりあえず企画を成立させる、というケースが多々あります。


しかし、日本のクリエイターの中には、このあくまでもビジネスのファーストステップでの事例をもって、「中国企業は金持ちだ」と盲目的に思い込んでしまうのケースもあります。「以前、Aさんはこのようなビジネス条件を成功させた」「B社はかつてこの金額を提示してきた」など。


実際のところ中国のホビー・フィギュアメーカーが急速発展とともに、初期段階を経過するとよりコスパの高いパートナーを求めていきます。また同じクリエイターの作品でも、全般的なマーケット相場により価値が大きく変動されています。


作品の面から見ると、特にフィギュアの分野では、素晴らしい作品と強い個性を持った日本のクリエイターが確かにたくさんいます。しかし『アズールレーン』をはじめ中国製ソーシャルゲームの発展に伴い、フィギュアメーカーと親和性が良い、中国国内でも優秀イラストレーターが多く現れ出しました。もちろん彼たちは中国語で本土メーカーとより効率的で直接的なコミュニケーションができるため商業的に大きな成功を収まった方も多いです。


前文で述べたように、中国ホビー・フィギュアメーカーが日本のクリエイターを選ぶ理由は、彼らが持つ影響力を借りて売り上げ向上を狙う、というのが重要な理由です。しかしながら国境を越えてもファンが多くついてきている優れた中国人イラストレーターを使って、日本市場でも成功するケースが、すでに出てきております。また近年中国系ソーシャルゲームの世界普及とともに、優れた作品を持つアーティストも世界規模で増えてきています。中国と日本だけでなく、韓国や東南アジア、さらには欧米でも優れた作品をアーティストがたくさんいます。今後、資金力のあるメーカーにとっての選択肢はますます広がっていくと言えるでしょう。



ロイヤリティ報酬設定の収入は半分運みたいのものである


日本クリエイターは報酬設定でまずはロイヤリティ収入を設定したがります。筆者は感じたのは、日本のクリエイターが最初1,2回のコラボ企画が成立した後、キツイ言い方をすれば、その成功体験から自分の作品の商業価値を見誤ることがあると感じています。ホビー・フィギュアのビジネス領域において、商業的な成果は半分はクリエイターとメーカーの功績でありますが、残りの半分、実は「運」であると筆者は感じています。


近年、フィギュア業界で多くの新規企業が参入し、市場も大きく変化しました。すでに飽和状態の厳しい戦場になってきています。少し前まではタイミングよく斬新な製品をリリースすれば、良い成果を得られましたが、今では商品の数はかつての何倍にも増えて、市場はさらに細分化されています。良い意味で消費者にとって、選択肢はますます増えてきました。


その中でコラボ商品を成功させるには、もちろん作者の作品力とメーカーの総合実力の勝負でもあります。しかし自分たちではなんともできない発売時の市場環境、エンドユーザーの購買力、マーケットで流行るトレンド、また同時期に発売される競合商品の有無など、様々な要素が販売結果に影響してきていますので、今実は運の要素もかなりあると言えます。


もうひとつ指摘したいは、個人クリエイターのイラストを元にしたフィギュア作品は、アニメやマンガのIP作品のように強力な世界観やストーリーがない場合も多く、初コラボ商品は多くの場合、作者の一番人気作品をピックアップしますので、それなりに人気の保証はつけられますが、今後より高いレベルの作品を出さないと販売実績が右肩下がりになってしまうケースもよくあります。



日本のクリエイターにとって中国のホビー・フィギュアメーカーと良好な関係を築くために大事なポイントまとめ


日本のクリエイターが中国ブランドと良好な関係を築き、収益の最大化を図るためにはどうすればよいのでしょう。筆者の経験から、いくつかの提案があります。


1.中国向けのSNSを活用して中国における影響力を確立する。

日本では個人クリエイターがTwitterやInstagramを利用して人気を集めることは多いですが、中国ではこれらのアプリは利用できません。中国のクライアントと接点を増やしたいでしたら中国で自分の影響力を高めることはとても重要なことであり、中国SNS主流の「微博(ウェイボー)」を利用して宣伝販促することが必須です。日本でも登録・利用が可能ですので中国市場を重視する方は積極的に微博のアカウントを運用することを強くお勧めします。


2.効率的なフィードバックとコミュニケーションを維持し、自分の意思を明確にする。

中国ホビー・フィギュアメーカーが日本のクリエイターとコラボ企画を進める際、コミュニケーションのスピードを非常に重要視します。また意思表示の面において意図が直接明瞭のほうが良いです。筆者の経験でクリエイターさんから日本式的であいまい婉曲で拒否表現はありましたけど、実はこのやり方は国際的なビジネスでメリットがありません。自己意思と条件を明確に示しはっきりとした断り方のほうが新しいチャンスにつながります。コミュニケーションがうまくとれないという印象が残ってしまうと、企画が中途半端で止まってしまうではないかと配慮されるからです。


3.商品プロモーションに積極的な協力する。

中国のホビー・フィギュアメーカーとコラボする際商品のプロモーションに積極的協力することがとても評価されます。それが中国メーカーが長期的なビジネスパートナーとして選ぶ際の重要な判断基準です。


4.自分のより完成度の高い世界観とストーリーを構築し、そして画風を向上・更新する。

日本のクリエイターにとってコラボ企画で自分の一番人気作品が選ばれた後、商品価値が認められる作品がなくなることを避けるべきです。キャラクター設定と世界観を充実していくことは商品企画展開がより有利になります。


流行を追えと言いませんが、表現のトレンドを意識したほうが良いと思います。筆者が多くの中国フィギュアメーカーと話した経験から言いますと、もし絵柄が「古い」と思われたら企画はあんまり成立しません。


5.仕事に見合った報酬を設定することと、絶対に選ばれる理由を作る。

少々きつい話ですけど、バブルと過去の成功体験からの報酬要求は理解できますが、マーケットも日々変わっていますので作品をどう売っていくのか、慎重に検討しましょう。


実際に商業案件で原稿を引き受けた場合の業界標準のギャラは通常いくらなのか、中国のホビー・フィギュアメーカー業界の方の多くは、調査済みで熟知しております。その中で自分作品をジャンルの中でトップレベルまでアップできるか、クライアントにより良い宣伝価値を与えられるか自分が絶対に選べれる理由を作り、影響力や評判を高めることが大事です。



中国のIPライセンス授権市場についてもっと詳しく知りたい方に(続編)も準備しています!

続編では、筆者が個人に経験してきた日中ホビー・フィギュアコラボ案件のリスク、トラブルなどの注意点、そして報酬収益をより有利にする考え方をご紹介ていきたいと思います。なかなか耳にできない話ですので、関心がある方はぜひチェックしてみてください。宜しくお願い致します。

 

■ライタープロフィール

ニックネーム:ライ

出身地:中国


自己紹介:中国美術系大学卒業後日本で長年実務経験後帰国、今は日中IPビジネスと若手クリエイター人材育成に専念。国際大手企業案件から個人クリエイター企画案件まで多数を経験。


1980~1990年代セル画時代の日本ロボットアニメマニアでもある。

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