「迷宮ブラックカンパニー」が中国でヒットする理由は"996" !? 中国視聴者がハマる3つのポイントをチェック!

近年人気を集めている、異世界転生もののアニメ。その中でも異色のアニメ「迷宮ブラックカンパニー」が今、日本のみならず中国でも大人気となっています。


今回はこの「迷宮ブラックカンパニー」が中国で受け入れられ、人気を博すに至った理由を考察してみました。


迷宮ブラックカンパニーとは?

「迷宮ブラックカンパニー」とは、マックガーデンのWebコミックサイト「MAGCOMI」にて配信された、安村洋平作の漫画です。2021年7月9日より、TOKYO MXにてアニメシリーズも放送中です。


原作: 安村洋平 マッグガーデン

【あらすじ】
働きたくない一心で不労所得を手に入れ、この先の人生はニートとして働かずに過ごしていこうとしていた主人公・二ノ宮キンジ。しかし唐突に異世界に転移し、辿りついたのは末端の人間を低賃金で長時間拘束するという超ブラック企業だった。
キンジは再びニート生活を取り戻すべく、仲間を集め「迷宮ブラックカンパニー」を組織して、成り上がりを狙う。

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「迷宮ブラックカンパニー」は、Amazon primeでは星4つの好評価を獲得しており、日本でも高い評価を受けているアニメ作品です。


一方中国でも、大手プラットフォーム「BiilBili動画」内の日本アニメランキングでは6位(2021年9月22日現在)と、人気の作品と言えます。



「996」工作制から見える中国企業の現状


「996」工作制とは?



「996」工作制とは、中国で2016年から使われている、IT業界をはじめとする国内企業での労働実態を指す言葉です。「996」とは、朝9時から夜9時まで週6日働くという意味で、中国国内に蔓延する非合法で過酷な労働状況を表すのに用いられることが多いです。


そもそも「996」という言葉は、2016年中国のとあるIT企業が繁忙期の心構えとして呼びかけたもので、強制でも制度的なものでもない、とされています。

しかし社員の強い反発を呼び、メディアでも批判的に報道されました。


さらに2019年には、若手プログラマーたちがこの問題を告発する自主サイトを立ち上げ、この「996」問題は再び大きな問題として中国国内を席巻しました。


この騒動に対し、アリババ総帥のジャック・マーや京東の創始者・劉強東らが「若いうちはがむしゃらに仕事に取り組むことも必要だ」と擁護しましたが、ことごとく炎上。

中国共産党機関紙「人民日報」でも「強制的な残業を企業文化にすべきではない」と論評を公表し、他メディアもこれに追随しました。


この一件で、中国国内の労働に対する意識に大きな世代間ギャップがあることが浮き彫りになったと言えます。


世代間ギャップの広がる中国企業の現状


そもそもジャック・マーをはじめとする現在中国企業のトップたちは「IT産業第一世代」として、それまで白紙同然だった国内市場をがむしゃらに渡り抜いてきました。当時は才覚と努力次第で成功は掴み放題だったのです。


ところが、中国では2000年ごろからモバイルインターネットの普及が進み、現在ではIT企業の利益率は全体的に低下しつつあります。すると企業はプログラマーの人件費を抑えつつ、個人の生産性を上げることで利益を確保するようになりました。


若者は「必死に働いても、今までのような成功は期待できない」と考えるようになり、「深夜まで残業することが優秀な人材の証」という従来の考え方を受け入れられなくなったのです。



迷宮ブラックカンパニーが響く3つのポイント


中国における日本アニメの視聴者は大学生をはじめとする若者が大半を占めています。

そして若者たちの多くは、自分たちを取り巻くこの過酷な状況に、違和感や危機感を抱えています。


こうした状況を踏まえると「迷宮ブラックカンパニー」が中国でヒットした3つの理由が見えてきます。


※bilibiliマンガ(https://manga.bilibili.com/)より転載


①過酷な労働状況への共感と皮肉


物語の序盤、主人公は努力して掴み取った「セレブニート」としての生活から突然たたき落されてしまいます。


そして辿りついたブラック企業の上司からこう責め立てられます。


「こんな結果出して恥ずかしくねえのか!」

「仕事ってのは身体壊してなんぼなんだ!」

「俺が若い頃はなぁ…」


そこに理屈や明確な方法論はなく、見ているこちらがちょっとひく程のコテコテの根性論が展開されるのです。


中国の大学生は、日本以上に熾烈な受験戦争を勝ち上がってきた言わば「勝ち組」です。その「勝ち組」が就職した途端ブラックな企業で理不尽に働かされる状況は、まさに主人公の状況とリンクしています。


そして、自分が置かれた状況に何の疑問も持たず闇雲に部下に無理難題を押し付ける上司を皮肉るような描写や、この理不尽な状況に立ち向かおうとする主人公の姿が、中国視聴者に響いたのです。


②持てる能力を駆使して状況打破する主人公の姿


主人公の二ノ宮キンジは人間なので、異世界に転移しても、急に力が強くなったり魔法を使えたりなどはしません。


しかし、セレブニートに昇り詰めるまでに身につけた知恵や能力といった自分の持てる力を駆使して、次第に状況を打破していきます。


メイン視聴者である大学生などの若者は、そもそもが知恵や能力を持った「勝ち組」です。理不尽な状況を、自分の持つ知恵と能力で柔軟に切り抜け昇り詰めていく主人公の姿に、自らの将来を投影し、一種憧れのような気持ちを抱いたのではないでしょうか。


③主人公からの問いかけ


物語が進むと、主人公は異世界で仲間を集めていきます。

そして敵を仲間に取り込むとき、このような問いかけをするのです。


「君たちは今本当に幸せか?」

「無制限の拘束に対し何の見返りもない」

「今が変わる最後のチャンスだ!」


そもそも主人公は当初ゲスを体現するような性格で、正義の味方ではありません。これらの言葉も、誰かを救おうとして投げかけられたものでもありません。


しかし、前述のような環境にある若い視聴者の胸には、確かに刺さるのです。そしてまるで自分も主人公やその仲間になったような気分で、物語に入り込むことができたのです。


個人の自由な感性を表現し始めた中国社会


「迷宮ブラックカンパニー」が中国で人気を集めている根底には、中国経済の変化と労働に対する世代間ギャップがあります。


共産主義国家の厳しい規制を受けながらも、若者たちは従来の一元的な価値観に疑問を抱き、個人の自由な感性を尊重するようになりました。


たとえばTモールと動画プラットフォームのBiliBiliが共同調査を発表した「2021春夏10大新トレンド」、「2021春夏新ファッションレポート」を見ても、ニッチなブランドを好むなど個性を重視する傾向が強く見て取れます。


アニメ界においても今年7月、日本でも公開された映画「DAHUFA」は今までにない、中国初の年齢制限付きバイオレンスアニメとして話題になりました。

©Enlight Pictures/NiceBoatAnimation


今後も若者たちを中心に、ますます変化が進むであろう中国社会。新たな表現への挑戦からも目が離せません。

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