いまや世界中で話題の人気作『チェンソーマン』の著者・藤本タツキ先生。その藤本先生による渾身の読切作品『ルックバック』が『少年ジャンプ+』にて配信されるやいなや、すぐにTwitter上のトレンド1位となりかなりの話題となりました。作品の表現について、国内でも様々話題になった本作ですが、中国のマンガファンたちはどう見たのでしょうか? SNSや掲示板などにあった代表的な意見をいくつかピックアップしてみました。
ルックバック/藤本タツキ作/集英社刊/9月3日発売
漫画家たちのストイックな作品制作の情熱に感動(20代/男性/学生)
「Look Back(※投稿ママ)」は長篇読切漫画として、藤本先生の個性が強く表れた作品です。優れた絵コンテ、絶妙なストーリー、どれをとっても藤本先生ならではの世界観だと思います。
「Look Back」の主人公・藤野も、藤本先生自身も、非常に才能のある漫画家です。しかしその才能の描写もさることながら、私に一番衝撃を与えたのは、極限まで高められた漫画への追求と熱意でした。藤本先生のような天才が十分に発揮できたのは、寝食を忘れるほど、絵を描く狂おしいほどの情熱があるからこそだと思います。
「Look Back」の作中では、藤野と京本は離れ離れになりました。しかし藤野は「京本がいたから自分は漫画を再び描きはじめた」ことを思い出し、描き続けることを決意します。
過去に相互に救済された二人から「一人となって絵を描き続ける」まで、悲劇的な描写もありますが、それは藤本先生がパラレルワールドを通してまで、「京本が生きている」世界を作ったからなおさらでしょうか。
「Look Back」と名前がついたのは、藤本先生が漫画を通して過去へ振り返った(ルックバック)のだと思います。幼い頃から狂ったように漫画を描いて、勉強を滞らせた藤野さんと、美術大学に進学して絵画の腕前を上げだ京本さんは、どちらも藤本先生自身の創作活動の経験が垣間見れます。また藤野と京本は藤本先生の中の二つの人格である、と考えている人もいます。その考察だと、京アニ事件を経て、京本の方の部分(人格)も一緒に失ってしまったのではないのでしょうか。
思わぬ災害は、お互い救い合った主人公の二人を生と死に隔ててしまいました。話の主なテーマとして、京アニ事件(もちろん他の様々な事象を指すかもしれません)によって社会全体にもたらされた悲しみを反映していたと思います。そして藤本先生は独自の方法でこうした創作活動に関する様々な問題を投げかけたのだと思います。
作品の背景が解るとより楽しめる作品(20代/女性/学生)
漫画のストーリーをおいて、あらゆる種類のポストクレジットシーン(作品の背景)が面白いです。例えばチェソンマンの背景、アシスタントが描いた漫画に似た漫画カバーのネタとか、編集(林編集)のネタ、バンド・オアシスの有名曲「Dont’ Look Back」のネタとか、映画「ハリウッドの昔々」、そして作者自身のネタとか)これらのおまけシーンから見ると、漫画全体は現実と非現実のあいまいさ、そして作者の本人が現実への願いと憧れが溢れています。そして本作は藤本先生の過去への振り返り(ルックバック)だと考えます。
さらに藤本先生が描いた自身のクリエーターとしての経験は、その鋭さと鮮やかさで多くのクリエーターの共感を引き起こしました。これは藤本先の優れた「リアリズム」の表現力であり、「藤本の美学」とも称賛できます。
キャラクターの表現が豊かで魅力的(20代/男性/社会人)
鳥肌が立つような作品です(感動的な)、藤本先生は確かに天才的な漫画家です。
漫画全体のシーンの切り替えは、絵コンテが映画を観ているようなインパクトを感じます。藤本先生は無言のシーンで豊かな表情の表現を行い、キャラクターのアクションを通して、セリフ無くても時間の経過や感情の変化を読者に伝えます。まさに絵でストーリーを語る、「漫画」の魅力を最大に引き出しました。
ストーリー全体は複雑ではありませんが、悲しみや後悔と同時に、暖かさや希望を感じました。またシンプルでパワフルで、漫画創作に向かう創作者の苦労と絡み合いが表現されていました。二人の主人公の関係の描写もすごく繊細で鮮やかで、物語の後半は悲劇の結末と思われていましたが、パラレルワールドの切り替えで、人々に悲しみから希望を見出しました。四コマの紙がドアの隙間を通り抜けて、メインワールドの藤野に届いた瞬間に、絶望的で悲しい結末に暖かさと希望、そして感動に変えました。
ストーリーの中の殺人事件は複数のことを暗に指したと思いますが、最初に思い浮かべたのはやはり京アニ放火事件です。思うたびに息が詰るようなことで、パラレルワールドのように藤野みたい、誰かが犯人を止めってくれるならいいのにと思います。
「あの」場所にいて「あの」凶行を止めることが出来たなら…(20代/男性/学生)
前半での京本と藤野の感情的な描写は、京本の死後、藤野の絶望と後悔を引き立たせることの為だと思います。そしてこの無力感と悔しさは結末にある感情的な爆発を引き起こしたと考えます。
有名な中国の作家王小波氏がこう言いました。「人間の苦しみすんべてのは本質は、自分自身の無能さに対する怒りである」もし無力さが最大の苦痛でしたら、それに対して何かできることが最大の慰めではないでしょうか。友人が殺害されるいう現実が残酷であるほどに、藤野のキックはより強く、スッキリと感じさせます。
このシーンは明らかに京アニの悲劇への哀惜だと思います。ストーリーに現れた神経質な殺人者のセリフは、実際にあった犯人の言語を直接使用されました(犯人は京アニが彼のアイディアをパクったと信じて犯行をなした)。
「もし自分がそこにいたらいいなぁ…あの狂人を止められたら…」と思う京アニを愛する人も多いと思います。
クエンティンの映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」では、主人公が狂人をやっつけました。 漫画「Look Back」では別の時間と空間では、藤野は京本を救出することができました。
亡くなった方への哀悼と生きる人達に勇気を与えてくれる(20代/男性/学生)
言葉には本当に表せないほどの感動でした。特に幾つかのセリフ無しのシーンでは、主人公と同じ気分、混乱、喜び、悲しみ、後悔を体験できました。
ストーリーの前半はホワイトボックスを思い出させます。後半は京アニ事件のことを思い出させました。現実は漫画よりもずっと残酷なことが多いと思いますが、藤本先生なりに温もりのある表現で、亡くなった人への思いを抱えながら、生きる人たちに勇気を与えました。
多くの日本のファンたちと同様、藤本先生の作品は、国境を越えても読み手の心にインパクトを与えたようです。また、日本のコミッククリエイターたちへのリスペクトを感じさせる意見も多かったです。何より例の「京アニ事件」について、日本のファン同様に心を痛めている中国人ファンの人が多かったのには驚きました。
ホビーテレパ編集部では、世界中でこうしたクリエイターへの相互理解が深まり、世界中でより良い作品が生まれる土壌ができてくればと心から願っております。
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